「南極料理人」という映画をご存じでしょうか。
堺雅人さんが、日本の南極観測隊の料理人役を演じた2009年公開の映画で、実際に観測隊の料理人として南極に赴いた方の実話が原作になっているものです。
この映画を最初に観た時の私の感想は、
「なんだ~。私はさしずめ亜南極料理人じゃないか!」
でした。
勿論、南極という隔絶された過酷な自然環境での長期任務の過酷さ・責任の度合いといったことでは、南極料理人の責務とは比べるべくもありませんが、実はある面では、南極料理人よりも厳しいところもあるのです。
「え?あなたって番組コーディネーターで、料理人じゃないよね?」
という読者の方の声が聞こえてきそうな気がしますが、実は亜南極フォークランドでのコーディネーターの仕事はいわば「何でも屋」。
製作費が潤沢なナショジオのようなところは、たとえフォークランドの離島という僻地であっても、完全分業の大所帯で乗り込んで来たりするのも珍しくありませんが、そこは現地で料理人や運転手・助手などを雇う余裕などない日本隊。「何でも屋」コーディネーターは、通訳・交渉・各種アレンジ・運転といった通常の業務以外に、取材班の食糧調達・日々の調理・掃除・洗濯・雑用・・・時にADのような役割も務めたりするのです。
そして取材班の皆様はそれ以上に大変で、2~3人(ディレクター・カメラマン+時にVE)という最少人数の取材体制で、険しい崖を重い機材を持って昇り降りしたり、撮影済メディアのコピーを作ったり、機材のメンテナンスをしたり・・・と、通常ならADさん、音声さん、VEさん、現地助手がやるような仕事までやらなければなりません。
そして私の場合は、日々の仕事の中でも料理が一番大変かも・・・です。
日本でも、大人4人分の食事を1~2か月の間1日も欠かさず3食作るのって、楽なことじゃないですよね。
フォークランドの離島では買い物できる店もなければ、電子レンジやオーブン等の便利調理器具もなし。食料をたくさん保存出来るような大型冷蔵庫もなし。
離島では一台のプロペラ式風力発電機で電気を起こし、電力としているので、電子レンジや大型冷蔵庫のように電気を大幅に消費するものは使えないのです。何せ炊飯器でさえ、蓄電量が80%以上あることを確認してから使わないと、炊飯スイッチを入れた途端ブレーカーが落ちてしまうのです。
映画「南極料理人」では、基地に相当に大きな冷凍庫や冷蔵庫があって、そこに越冬期間分の食料がふんだんに貯蔵されています。映画の中で、伊勢海老・お刺身・ステーキといった高級食材が惜しげもなく料理に使われていましたが、一方私たちはといえば、1か月半×4人分の生鮮食品を冷凍しておける冷凍庫は、何とビジネスホテルの部屋備え付けの冷蔵庫1つ分くらいの大きさ。冷蔵庫も同じ大きさ。
つまり、1か月半分の大の大人4人分の生鮮食品を、あの小さなホテル冷蔵庫2つに収めなければいけないんですよ~!!
さらに・・・島にはお店も野菜畑もなければ、家畜もいないのです。外からの食料供給源は、1か月半に一度だけ島にやって来る供給船だけなので、取材中に1度来るか来ないかなんですよ~!!
調理器具も、電子レンジもオーブンもないんですよ~!!あるのは、火力が弱いガスコンロだけ。
ある面では、南極料理人より大変なところもある、と最初に言ったのは、こうしたことなのです。
この限られた生鮮食品で、1か月半大人4人分の3食をまかなわなければならない亜南極料理人の笑いあり涙ありの奮闘ぶりを、次回はちょっと書いてみたいと思います。